【後遺障害12級】裁判所で保険会社の最終提示よりも220万円余り増額した和解。自転車に乗った高齢で独り暮らしの専業主婦の事例
- 獲得金額
- 660万円
- 受傷部位
左脛骨遠位端開放骨折(開放性Pilon骨折)の傷害
- 後遺障害等級
12級7号[1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの]左脛骨遠位端開放骨折後の左足関節の機能障害等
事案・ご相談内容
被害者 | 女性・固定時77歳・無職(専業主婦) |
---|---|
受傷部位・内容 | 左足関節,左脛骨遠位端開放骨折(開放性Pilon骨折)の傷害 |
後遺障害等級 | 12級7号[1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの] *左脛骨遠位端開放骨折後の左足関節の機能障害等 |
獲得金額 | 660万円 |
裁判所・事件番号 裁判年月日 |
札幌地方裁判所平成31年(ワ)第446号 令和元年9月12日和解 |
無職で一人暮らしである高齢者の女性である被害者が、加害者が加害車両を運転し店舗の駐車場から歩道を横切って一般道路に出るに当たり、歩道を自転車に乗車して加害車両左側から接近してきた被害者を見落としたまま進行したため、加害車両を被害者及びその自転車に出会い頭で衝突させ、左脛骨遠位端開放骨折(開放性Pilon骨折)の傷害を負い、左脛骨遠位端開放骨折後の左足関節の機能障害について12級7号に認定される後遺障害を負った事案です。
加害者側は、保険会社との交渉段階ではしなかった過失相殺の主張を持ち出し、一定の範囲で考慮されましたが、訴訟上の和解で、損害賠償額の増額となった事例です。
争われた内容(争点)
本件訴訟では、次の諸点が争われました。
- 過失割合
- 損害
自賠責保険においては、被害者に落ち度がある場合には過失相殺減額を行うとしても、過失相殺減額は、被害者救済の見地から、被害者の重大な過失が認められるような場合に限り減額がされています(その場合でも被害者に有利な減額割合で行っている。)。
そこで、保険会社は、過失相殺を主張せずに、自賠責の範囲を基礎とした示談を提示をすることがあります。
高齢者は、無職であるか、稼働していたとしても、就労可能年数が限られるので、逸失利益の額は、相対的に低い金額で算定されることとなるため、被害者に落ち度があるような場合でも、保険会社は、示談交渉段階では、むしろ過失相殺を主張しないで、自腹を切らなくても済む、自賠責の支払基準の満額限り(あるいは、若干の任意保険での支払を加えたもの)を基に、示談額を提示してくることがあります。
自賠責保険における過失相殺減額が被害者有利なものであることから、被害者に落ち度があるような場合には、被害者加害者双方の公平の見地からされる裁判所の厳密な運用によると、かえって、確保できる金額が少なくなる場合も十分にあり得ます。
そこで、高齢者の場合の訴訟の提起については、特有の慎重な検討が必要となります。
解決内容
項目 | サポート前 | サポート後 | 増額幅 |
---|---|---|---|
治療費 | 8,636,043 | 2,680,351 | ▲ 5,955,692 |
入院雑費 | 207,900 | 283,500 | 75,600 |
通院交通費 | 1,477,140 | 1,477,140 | 0 |
その他費用 | 704,499 | 704,499 | 0 |
傷害慰謝料 | 2,179,800 | 3,200,000 | 1,020,200 |
逸失利益 | 2,240,000 | 0 | ▲ 2,240,000 |
慰謝料 | 2,240,000 | 2,900,000 | 660,000 |
損害額合計 | 15,445,382 | 11,245,490 | ▲ 4,199,892 |
過失相殺 | 0 | ▲ 562,275 | |
既払金 | ▲ 11,074,754 | ▲ 5,108,970 | 313,631 |
既払金控除後金額 | 4,370,628 | 5,574,245 | |
認容額合計(主文) | 4,370,628 | 5,574,245 | 1,203,617 |
調整金 | 1,025,755 | 1,025,755 | |
合計 | 4,370,628 | 6,600,000 | 2,229,372 |
単位:万円 |
加害者側は、示談交渉段階では、自賠責保険の支払を最大限活用しようとして、過失相殺を主張しておりませんでしたが、訴えが提起されると、当然のごとく、被害者に2割の過失が存在するとの過失相殺減額を主張しました。
しかし、被害者側が主張・立証した結果、裁判所は、加害車両が歩道に出ていたとみるのが合理的であり、被害者の年齢を踏まえる、5パーセントの過失にとどめるのが相当と判断しました。
【参考】
(第1準備書面)
2 「第2 過失割合について」に対する反論
本件事故は、被告が、普通乗用自動車である被告車両を運転し、駐車場から歩道を横断して車道に進出するに当たり、一旦停止するも、右方を見ることに気を取られたまま発進進行し、被告車両前部を同歩道上を左方から右方へ向かい通行中の原告運転の自転車(以下「原告自転車」という。)右側面部に衝突させて、原告を原告自転車もろとも路上に転倒させた事故である(乙2の2)ところ、本件の事故態様が、別冊判例タイムズ38号【299】に該当する場合であるとしても、《原告においても、被告車が発進することを予見し、その前方に不用意に進入しないよう注意すべきであったといえる。…。》などと主張するのは、止まっているものは動き出すかもしれないのだから注意せよ、というに等しく、自分の安全ばかりにしか関心がなかった被告の責任を原告に転嫁の考えであって不合理であるというほかないし、仮に百歩譲って抽象的にそのようなことがいえるとしても、それは、基本の過失相殺率を設定するにあたって盛り込み済みのはずであるといわなければならない。
原告は、車道に進出すべく歩道上に停止していたことは認識していたものの、頭がどこに位置したかまでは認識しておらず、この点が具体的に主張立証されていない本件において、「頭を出して待機」を修正要素とすることは相当でないし、「その他の著しい過失」の修正要素に該当するとしているが、何らそれを基礎付ける具体的事情を明らかにしておらず、主張自体失当であって、原告側に加算すべき修正要素を認めることはできない。かえって、「高齢者」であることを考慮すると、原告には過失を認めることができないというべきであるというほかない。
(第2準備書面)
第1 事故状況について
事故状況図(乙1)の図面(1頁)によると、◎◎◎◎○○店の駐車場(以下「本件駐車場」という。)からの出入口は、幅が8m程度であるところ、その両側には、車両が通過できないように低いコンクリートが本件駐車場と歩道の間に長く設置されている(乙1添付の写真報告書の1頁の3枚目、2頁の3枚目、4頁の1、3枚目の各写真参照)。
本件駐車場から車道に出ようとする自動車は、上記出入口が出入り共用であることから、その進行方向左側を通過することとなり、被告車両は、乙1の図面でいうと右側寄りに停止しており、原告が、敢えて被告車両の後方を通過するためには、原告から見て、被告車両の右側とコンクリートの間の出入口の空いている部分を通り抜けなければならないから、容易でないか、あるいは、自転車から降りてこれを押しながら回るなど少なくとも著しく面倒な状況であった。
一方、被告車両は、4・4m幅の歩道の真ん中よりは車道寄りに停止してはいたものの、当時74歳の原告であっても、車道に出ることなく悠々と歩道部分を通過できる程度は空けて停止しており、車道には、定山渓方向から真駒内方向に向かって近づいてくる車両が見えたので、まさか被告車両が急に発進するなどとは思いもよらなかったのである。
所感(担当弁護士より)
自賠責保険の支払限度額を基に、過失相殺の主張を敢えて主張しない保険会社の方策は、自賠責保険の事故被害者の保護・救済という観点からの被害者に有利な取扱いとは、異質で技巧的というほかありません。
しかし、一般論としては、裁判所の損害額の算定が、自賠責保険(そして、任意保険)の基準によるより高額になるとはいっても、その算定後に、過失相殺による減額がされるかどうかは請求できる損害額が大きく変わり、訴えを提起したことによって、獲得できる金額がかえって減額しないように、ポイントを洗い直し慎重な検討をすることが不可欠です。
前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
事務所全体で30社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。
その他の解決事例
- 獲得金額
- 980万3094円
- 受傷部位
下顎骨骨折,歯牙脱臼,口腔内裂傷,歯牙破片,咬合不全,外傷性咬合,外傷性顎関節症等の傷害、頭部外傷、脳挫傷、下顎骨骨折等の傷害
- 後遺障害等級
11級4号[10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの]歯牙障害*既存障害が14級2号に該当)
- 獲得金額
- 4594万5516円
- 受傷部位
- 外傷性ショック
- 後遺障害等級
死亡
- 獲得金額
- 1065万円
- 受傷部位
- 脳挫傷(右側頭葉)、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨骨折、左肋骨骨折の傷害
- 後遺障害等級
12級13号[局部に頑固な神経症状を残すもの]体動時のめまいとの自覚症状について、脳挫傷痕の残存が認められ、他覚的に神経系統の障害が証明される