交通事故における過失相殺とは?

すべて加害者の責任とはいえない場合があります

交通事故の発生は、すべて加害者の責任とばかりはいえない場合があります。
たとえば、高速道路を走る自動車の中で、シートベルトを装着しないまま助手席に座っている自分を思い浮かべてください。事故にあった場合、シートベルトを装着してさえいれば、死なないで済んだとか、もっと軽い怪我で済んだなどということは容易に想像できるはずです。
被害者にも落ち度があると評価される場合には、損害の公平な分担の観点から、「過失相殺」されて総損害額が減額されることになるのです。

例えば、シートベルトの事案をご紹介しますと、
父親の運転する被害車両にシートベルトを装着せずに同乗していた子2人が加害車両の運転者らに対して損害賠償を請求した事案について、助手席の同乗者には10%過失相殺を認め、後部座席の同乗者には、運転者が後部座席に乗車する者にシートベルトを装着させるべき義務は努力義務とされており、後部座席に同乗する者がシートベルトを装着することが一般化しているとはいえない実情を配慮して過失相殺を認めなかった裁判例があります(東京地裁平15・5・8判決)。

もっとも、シートベルトを装着しなければ、すべて同一の扱いをされるわけではなく、事故の状況のほか、時代背景も考慮されることになります。
この点で、
平成16年12月発生の死亡事故につき、道路交通法上のシートベルト装着義務の名宛人は運転者であるが、助手席同乗者のシートベルト装着義務がすべての道路で法制化されたのは昭和60年であり既に社会に定着していること、自らの生命、身体を保護するために当然に負うべき義務と考えられること、同義務を怠った同乗者は自ら損害拡大の危険性が高い状況を作出したといえることから、同乗者のシートベルト早着義務違反は運転者に対する関係でも損害の減額事由となると判断した裁判例があります。
平成20年の道交法改正で、全席でシートベルトを着用することが義務化されましたので、今後は、冒頭の事例も、結論が変わるかもしれません。

過失相殺とは?

「過失相殺」が、損害の公平な分担の観点から認められた法理であるとしても、加害者側が支払額を減額するためのテクニックであることは間違いありません。任意保険で賠償金が支払われる場合、加害者や加害者の雇用主が被告となるとはいっても、背後には保険会社が控えており、通常、加害者側には、保険会社が指定した弁護士が代理人として選任されます。損害賠償額を減額しようとするのは当然の成り行きです。

過失相殺についても、個々の事案に沿った柔軟な解決が図られなければなりませんが、同様な事案であるのに、裁判官の判断にブレがあり、被害者ごとにバラバラの扱いとなることはかえって問題です。
そこで、裁判所の基準として、東京地裁民事交通研究会編『別冊判例タイムズ№16 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂4版)』[平成16年、判例タイムズ社]が公表されています。
なお、同書は、次のとおり改訂されてきました。

・東京地裁民事交通研究会編『別冊判例タイムズ1号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』[昭和50年、判例タイムズ社]]
・東京地裁民事交通研究会編『別冊判例タイムズ№1 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂版)』[平成3年、判例タイムズ社]]
・東京地裁民事交通研究会編『別冊判例タイムズ№15 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂3版)』[平成9年、判例タイムズ社]

保険会社の資料

保険会社は、示談するに当たって、加害者に有利な過失相殺を主張してくるのがしばしばですが、実際に、被害者や遺族に提示した資料をお見せしましょう。

手書の文書は、組合の担当者が最終示談案を提示するものですが、担当者は、判例があるとして、被害者の過失が45%だと説明していました。しかし、裁判所の認めた過失は30%でした。先に御紹介した重度後遺症の障害を負ってしまった案件です。

コピーは、保険会社の担当者が被害者の過失が20%と説明する際、遺族に渡した資料です。この資料自体は裁判所も参考にする基準ですが、この事案には合わない不適切なものでした。裁判所の認めた過失は10%にすぎません。後に御紹介する敷地内で運搬用のトラックにひかれて亡くなってしまった案件です。

しかし、このような保険会社などの示談交渉の進め方を、被害者や御遺族は知りません。被害者の方や遺族の方の中には、保険会社やJAなど自動車共済事業を行う組合などの担当者との交渉の中で、賠償金を値切られてしまっても、やむを得ないと思い示談してしまう場合があります。それどころか、値切られていることにさえ気がつかないまま示談してしまうことも少なくないのです。

裁判例

当法律事務所の取扱事案の中には、次のとおり、被告側(保険会社(組合))の主張が過大であることが明らかになって斥けられた事例があります。

○ 保険会社は、20%の過失相殺率を主張したが(裁判では、さらに30%を主張した)、裁判所は、10%の過失相殺しか認めなかった事例(札幌地方裁判所平成19年(ワ)第3491号同20年9月11日民事第5部判決)
*派遣社員である若年者の会社構内での死亡事故につき、保険会社が提示した最終示談提案額は4,800万円強であったが、判決の認容額が7,000万円強となり、遅延損害金も含めると7,800万円余りの支払になった事例

○ 保険会社は、20%の過失相殺率を主張したが(裁判では、さらに30~40%と主張した)、裁判所は、10%の過失相殺しか認めなかった事例(札幌地方裁判所平成16年(ワ)第893号同17年6月23日民事第2部判決)
*主婦の死亡事故につき、保険会社が提示した最終示談提案額は2,900万円足らずであったが、判決の認容額が4,200万円弱となり、遅延損害金も含めると4,600万円弱の支払になった事例

○ 自動車共済の組合は、45%の過失相殺率を主張したが(裁判では、さらに70%以上と主張した)、裁判所は、30%の過失相殺しか認めなかった事例(札幌地方裁判所民事第1部平成7年(ワ)第5203号同9年6月27日判決)
*自動車共済のわずか54万円の残額支払提示に対し、裁判を起こした結果、2,300万円を超える支払を受けることができた事例

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