平成26年7月10日民事第5部判決

札幌地方裁判所判決
平成25年(ワ)第2126号
損害賠償請求事件
平成26年7月10日民事第5部判決

主  文

1 被告は、原告に対し、1522万6738円及びこれに対する平成21年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
被告は、原告に対し、2484万2193円及びこれに対する平成21年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
本件は、原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)に被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が衝突したことによる交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告が、被告に対し、自賠法3条又は民法709条に基づき、損害賠償の支払を求めた事案である。

1 前提事実等
(1)本件事故の発生
ア 日時 平成21年10月22日午前5時40分頃
イ 場所 札幌市清田区真栄56番地付近道路
ウ 被告車両 普通乗用自動車(自家用)(千葉PらQ)
運転者 被告
エ 原告車両 普通乗用自動車(自家用)(札幌RのS)
運転者 原告
オ 事故態様 上記場所において、原告が札幌方面から大曲方面に向かって原告車両で進行中、前方から、飲酒酩酊していた被告が、道路を逆走して原告車両に正面から衝突した。
カ 事故の結果 原告は、本件事故により、右大腿骨開放骨折、右膝蓋骨骨折、右上腕骨筋に部骨折、左第一中手骨骨折、外傷性くも膜下出血、顔面頚部裂創、下顎骨骨折、右外傷性血気胸の傷害を負った。
(2)責任原因
被告は、本件事故当時、飲酒のため前方注視が困難な状態になり、的確な運転操作が困難な状態となっていたのであるから、直ちに運転を中止すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り運転を継続した過失により本件事故を発症させたものであるから、自賠法3条又は民法709条に基づき、本件事故から生じた損害を賠償する責任を負う。
(3)原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害
ア 原告は、本件事故により、症状固定までの間、次のとおり治療を受けた。
(ア)札幌医科大学附属病院
(入院)平成21年10月22日ないし同年11月10日(20日間)平成22年9月24日ないし同年10月13日(20日間)入院期間40日間
(イ)札幌円山整形外科病院
(入院)平成21年11月10日ないし平成22年2月20日(103日間)平成23年7月4日ないし同月25日(22日間)平成24年9月17日ないし同月29日(13日間)入院期間138日総入院期間177日
(通院)平成22年2月21日ないし平成24年12月31日通院期間1045日(通院実日数178日)
イ 後遺障害
原告が受けた傷害について、平成24年12月31日に症状固定と診断されたが、脳挫傷痕、右膝運動時痛、右下肢の短縮障害、及び顔面・左手・右下肢・右胸部・右前腹部の箇所に術後瘢痕が残っており、少なくとも後遺障害等級併合第11級に該当する。
(4)既払額
被告は、原告に対し、労災保険からの求償分を含めて合計2749万5274円を支払った。
2 争点及び当事者の主張
争点は、原告に生じた損害額であり、これに対する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
(1)積極損害
ア 治療費 1273万4464円
イ 看護料 132万8119円
ウ 諸雑費 29万5500円(計算式)1500円×197日=29万5500円
エ 通院交通費 168万8860円
オ 文書料 1万8260円
カ その他 41万4811円
(ア)装具代として 2万8531円
(イ)眼鏡代として 12万4950円
(ウ)看護時タクシー代として 25万3150円
(エ)画像取得時タクシー代として 8180円
(2)休業損害 1014万5383円
ア 休業日数
原告は、株式会社Aにてタクシー運転手として勤務していたところ,本件事故による入院及び通院のため休業せざるを得ず、結局職場復帰できなかった。したがって、原告は、本件事故日である平成21年10月22日から症状固定日である平成24年12月31日までの1167日間、稼働することができなかった。
イ 基礎収入
原告の本件事故前年の収入は317万3149円であるから、日額8693円となる。札幌のタクシー事情としては、春から夏にかけてはタクシーの利用は低く、秋口から冬場を経て春までの期間こそが、タクシーの需要が高く、売上も上がる時期である。したがって、原告の休業損害を適正に算定するにあたっては、売上の低い時期である7月ないし9月の収入を基礎とするべきではなく、事故前年の収入を基礎として日割り計算すべきである。
(3)後遺障害による逸失利益 1142万5766円
ア 原告は、本件事故当時49歳(昭和35年7月22日生)の健康な男子であるところ、後遺障害等級併合11級に該当する障害が残り、労働能力喪失の割合は20%である。
イ 原告は、症状固定時の52歳であって、今後15年間にわたり稼働可能であるところ、事故の前年の平成20年男性全年齢平均賃金である、550万3900円を基礎に、年5分の割合による中間利息をライプニッツ方式(ライプニッツ係数10.3797)により控除して、本件事故の逸失利益を算出すると、1142万5766円となる。原告の後遺障害としてびまん性脳損傷があるところ、その原因は脳挫傷痕であり、右膝運動時痛の原因は、右膝蓋骨骨折後の関節面の不整であるところ、頭部への受傷や骨折を原因とするものであって、単純な神経症状ではなく、労働能力喪失期間を10年に限定する理由はない。
(4)傷害慰謝料 400万
原告は、本件事故によって、症状固定までの間、入院及び通院を長期間にわたって行うことを余儀なくされ、総治療日数は1167日間にも及ぶことから、傷害慰謝料は400万円を下らない。
(5)後遺障害慰謝料 800万
ア 原告は、本件事故当時49歳の健康な男子であり、本件事故により、少なくとも後遺障害等級併合11級に該当する障害が残った。
イ 被告の過失の大きさ等を勘案すると、後遺症慰謝料は800万円を下らない。
(6)弁護士費用 225万円
(被告の主張)
(1)積極損害について
ア、イ及びエないしカは認める。ウの諸雑費について、総入院期間は177日であるから、1日あたり1500円で算定すると、合計26万5500円である。
(2)休業損害について
アは認め、イは否認ないし争う。原告の本件事故前の平成21年7月から同年9月までの給与は、合計66万4641円であり、これを90で除すと、原告の1日当たりの収入は、7385円である。また、本件事故により越冬手当の減給が合計24万円なされているから、これも加算すると、885万8295円となる。
(3)後遺障害による逸失利益について
アは認め、イのうち、原告が症状固定時52歳であった事実は認め、その余は争う。原告は、本件事故時、若年労働者ではなく、平均賃金が得られる蓋然性も証明されていない。したがって、逸失利益の算定にあたっても、本件事故前の現実の収入が基礎とされるべきである。また、原告の後遺障害は、局部の頑固な神経症状の残存及び下肢の短縮傷害である。したがって、労働能力の喪失期間は10年間が相当である。この結果、逸失利益は合計490万0611円が相当である。
(4)傷害慰謝料について
傷害慰謝料は争う。原告の本件事故による通院実日数は178日であり、通院実日数が少ないことから、実通院日数を3.5倍した日数を通院期間とするのが相当である。したがって、入院期間は約6か月、通院期間は約21か月となるから、傷害慰謝料は、316万円が相当である。
(5)後遺障害慰謝料について
後遺障害慰謝料は争う。原告は後遺障害等級併合11級と認定を受けていることから、420万円が相当である。
(6)弁護士費用について
訴訟委任関係は認め、その余は争う。

第3 当裁判所の判断
1(1)積極損害について
ア 治療費 1273万4464円
当事者間に争いがない。
イ 看護料 132万8119円
当事者間に争いがない。
ウ 諸雑費 26万5500円
原告の総入院期間は177日であることは当事者間に争いがないから、諸雑費1日あたり1500円で計算すると26万5500円である。
エ 通院交通費 168万8860円
当事者間に争いがない。
オ 文書料 1万8260円
当事者間に争いがない。
カ その他 41万4811円
当事者間に争いがない。
(2)休業損害について
原告が、本件事故日である平成21年10月22日から症状固定日である平成24年12月31日までの1167日間、稼働することができなかったことは当事者間に争いがない。そして、証拠(甲5、乙1)によると、原告の平成21年度の所得は317万3149円であり、365日で割ると1日当たり約8693円となること、原告の本件事故前の平成21年7月から同年9月までの給与は合計66万4641円であり、90日で割ると1日当たり約7385円となることが認められる。もっとも、証拠(乙1ないし4)によると、原告はタクシー運転手であることが認められ、その収入は季節によって変動が大きいと解されることから、事故前年の収入を基礎として算定するのが相当である。したがって、基礎収入としては、1日当たり8693円とするのが相当である。よって、原告の休業損害は1014万4731円となる。(計算式)8693円×1167日=1014万4731円
(3)後遺障害による逸失利益について
原告は、本件事故当時49歳(昭和35年7月22日生)の健康な男子であるところ、本件事故により、平成24年12月31日に症状固定と診断されたが、後遺障害等級併合11級に該当する障害が残り、労働能力喪失率が20%であることは当事者間に争いがない。もっとも、原告について、賃金センサスの平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があるとは認められず、したがって、逸失利益の算定にあたっても、本件事故前の現実の収入が基礎とされるべきである。また、労働能力喪失期間については、後遺障害の症状に鑑み、67歳までの15年間とするのが相当である。そうすると、後遺障害による逸失利益は658万7267円となる。(計算式)317万3149円×0.2×10.3797≒658万7267円
(4)傷害慰謝料について
本件事故による原告の傷害、入通院日数に鑑みると、傷害慰謝料としては316万円を相当と認める。
(5)後遺障害慰謝料について
上記前提事実及び証拠(甲7、8)によると、被告は、約3時間にわたって大量に飲酒した上、自宅近くの飲食店に行くためという理由から運転を開始し、本件事故を発生させたこと、本件事故当時の被告のアルコール濃度は呼気1リットルにつき約0.7ミリグラムに上り、事故前の状況につき「はっきりと覚えていない」など供述するなど、被告はほとんど泥酔状態にあったことが伺われること、それにもかかわらず、被告は運転行為を継続し、交差点で自車を内回りさせて対向車線に進出させ、さらに約0.1キロメートルもの距離を逆そうして本件事故を発生させたものであって、被告の過失の程度は非常に重大であり、他方で原告に過失がないこと、本件事故により原告に重い後遺障害が発生していることが認められ、このような事情に鑑みると、原告の後遺障害慰謝料としては500万円を相当と認める。
(6)小計
以上合計額は4134万2012円となるところ、既払額合計2749万5274円を控除すると、残額は1384万6738円となる。
(7)弁護士費用について
本件に顕れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用相当損害金としては、138万円を相当と認める。
(8)総合計
以上合計額は1522万6738円となる。
2 結論
以上から、原告の被告に対する請求は1522万6738円及びこれに対する本件事故日である平成21年10月22日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

裁判官 浅田秀俊


前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
事務所全体で30社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

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