【判例】当事務所が担当し勝訴した事件が,判例雑誌「判例タイムズ」に登載されました。

自動車を運転中に交通事故を惹起して死亡した保険契約者兼被保険者が糖尿病に罹患していた場合であっても,その死亡の直接の原因が当該事故であることが明らかである以上,保険者において,保険契約者兼被保険者の証する必要があるところ,その主張立証がない判示の事実関係の下においては,当該事故について疾病免責条項の適用による保険者の免責を認めることはできないとして,保険金受取人の保険金請求を認容した事例

〔裁判所名〕 札幌地方裁判所民事第1部 判決
〔判決日付〕 平成23年9月28日
〔事件番号〕 平成22年(ワ)第2165号
〔事 件 名〕  保険金請求事件
〔登載文献〕「判例タイムズ」1320号204頁・「金融・商事判例」1377号15頁

当事務所が裁判所に提出した書面の一例は,後掲のとおりです。

登載判例誌は,こちら をご覧ください。

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平成22年第2165号保険金請求事件
原告 ●●●●
被告 あいおい損害保険株式会社

準    備    書    面

平成22年12月27日

札幌地方裁判所 民事第1部3係 御中

上記原告訴訟代理人弁護士 前田尚一
同          〇〇〇〇

第1 被告の主張に対する反論
被告は,《①本件事故では偶然性に疑義があり,本件約款第1条の支払条項に該当》しない,《②被保険者の疾病により惹起されたものとして本件保険約款3条1項5号により免責される》と主張するが,次のとおり,いずれも採用できない。

1 被告は,《本件事故では偶然性に疑義があり,本件約款第1条の支払条項に該当》しないとして,請求原因自体を争う。
そして,《本件事故は,亡Aの前方不注視や居眠り運転等を原因とする偶然な事故とみることは疑問がある》,《亡Aの意思によらない不測の事態が衝突前に既に生じていたことを窺わせるものと思われる》,《本件事故の異常な事故態様に鑑みると,本件事故が外来性の要件を充たすとしても,糖尿病による低血糖状態で意識を消失し,本件事故に至ったと見られる》などの見解を述べている。

2 しかしながら,最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1955頁は,疾病による傷害を免責事由として定めている災害補償共済規約の解釈として,「(災害補償費の)請求者は,外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべき責任を負うものではない」と判示し,また,最高裁平成19年10月19日第二小法廷判決・裁判所時報1446号357頁は,疾病免責規定のない人身傷害補償特約の解釈として,「保険金請求者は,運行事故と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,被保険者の傷害が疾病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべき責任を負うものではないと判示している。

したがって,被保険者の疾病を問題としようとするのであれば,疾病免責規定を基に抗弁として主張立証をしなければならず,請求原因自体を争うために,被保険者の疾病を持ち出すのは全くの筋違いであるといわなければならない。

3 もっとも,前記最判はいずれも,外来性の要件との関係で説示されているものであるところ,前記1で引用した被告の反論内容に加え,(《……,本件事故が外来性の要件を充たすとしても,……》)の表現に照らすと,被告は,請求原因レベルでは,もっぱら偶然性の要件を争っているようである。

しかしながら,《「偶然性」とは,被保険者が原因または結果の発生を予知できないことであり,被保険者の故意に基づかないことと同義であって,被保険者の自殺や闘争行為による傷害を除外する趣旨である。》(塩崎勤ほか編『保険関係訴訟』623頁【大島眞一】[平成21年,民事法研究会])。
なお,最高裁平成13年4月20日第二小法廷判決・民集55巻3号682頁[生保会社の災害関係保険],同法廷判決・民集61巻5号1955頁[損保会社の普通傷害保険特約]について,損害保険契約に関する近時の一連の判例との一貫性がないとか,平成20年に制定された保険法との関係から,変更される可能性も生じており,流動的な現状にあるといわれてなされる議論も(塩崎勤ほか前掲622頁【大島眞一】,山下友信「保険法と判例法理への影響」『自由と正義』平成11年1月号34頁),もっぱら故意免責との関係でされているものである。

原告としては,上記各見解と偶然性の要件との関連,特に,被保険者の疾病を被告が偶然性の要件との関連で持ちだしている意味が,全く理解できないところである。
そして,被保険者の疾病を,外来性の要件ではなく偶然性の要件との関係で持ちだすことによって,上記最判が判示した主張立証責任に消長を来すというのであれば,上記最判の趣旨を没却するものであって,失当であるというべきである。

4 なお,偶然性の要件については,実際の訴訟実務では,偶然性の立証について保険金請求者側に厳格な証明を求めるものは少なく,むしろ保険者側がさまざまな間接証拠を集めて免責事由を疑わせる立証に迫られるのが実情であり(塩崎ほか・前掲207頁【潘阿憲】),前掲最高裁平成13年判決があるも,現実の裁判では,保険者に対して,故意免責の立証を求めるのと同程度の反証を求めているのが下級審の実情である(塩崎ほか・前掲414頁【川木一正】])。

ちなみに,青森地裁八戸支部平成18年6月26日判決・判タ1258号295頁は,前掲平成13年各判決の判示を前提として《しかしながら,保険金請求者側で事故が偶然であること,すなわち被保険者の意思に基づかないというような消極的な事実を立証することは実際上極めて困難であるから,保険金請求者に偶然性の主張立証責任があるとしつつも,一定程度その立証の負担は軽減すべきであり,人は一般に自らを傷つけるものではないという人の自己保存本能に基づく経験則から,保険金請求者において,保険事故を推認させる程度の一応の外形的事実が立証されれば,保険者が前記推認を覆すに足りる事実,すなわち,自殺を真に疑わせる事情を立証しない限り事故の偶然性を認定することができるものと解するのが相当である。》と判示している。

5 そして,《亡Aの意思によらない不測の事態が衝突前に既に生じていた》としても,単に,《本件の異常な事故態様に鑑みると》という表現を用いたところで,直ちに《糖尿病による低血糖状態で意識を消失し,本件事故に至ったとみられる》とまでいうことはできない。
前記のとおり,被告が如何なる意味で《本件事故では偶然性に疑義があ》るというのか判然としないが,いずれにしても,被告が《本件の異常な事故態様》として述べる程度の事情では,本件において,偶然性の要件を充足することを妨げるものではない。

6 以上の次第で,被告の《本件事故では偶然性に疑義があり,本件約款第1条の支払条項に該当》しないとの主張は理由がなく,被告が支払を免れるためには,《被保険者の疾病により惹起されたものとして本件保険約款3条1項5号により免責される》との抗弁主張を立証するほかない。
しかしながら,被告の同主張は,単に一方当事者の推測の域をでるものではないこと,被告は《運転席には亡Aの姿はなかった》などとBB(以下「B」という。)の供述を有利に援用するが,同人は亡Aにとっては加害者にあたる立場であって,同供述は,本件について的確な証拠ということはできない。
そして,医師辻田孝輔の意見(甲8)によれば,かえって本件事故が糖尿病によるものではないことが認められ,被告の同主張は理由がないといわざるを得ない。

第2 被告に対する求釈明

被告は,特殊調査報告書(乙2)を提出したところ,同報告書の119頁以下に「事故状況のシミュレーション」を掲載しているが,シミュレーションは,本件事故が第1走行車線で発生したものとしてがされたものである。
しかるに,Bは本件事故が第2走行車線で発生したものと供述しており(乙2の294頁),これと乖離してするシミュレーションでは,本件事故の真の原因を明らかにすることはできない。
そこで,捜査機関の実施した実況見分などの刑事記録を検討する必要があると考えられるが,証拠収集のために文書送付嘱託などの対処を採るためには,被告において把握していると推察される事項が明らかになることが不可欠であり,原告は,被告に対し,次の事項について釈明することを求める。

1 Bが本件事故に関して起訴されたかどうか,起訴された場合,判決が確定したかどうか。
2 Bが本件事故に関し起訴された場合の裁判所,事件番号など事件を特定する事項
3 Bが本件事故に関し起訴されなかったた場合の不起訴の内容,被疑事件番号など捜査機関における事件を特定する事項

以上


前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
事務所全体で30社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

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