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交通事故 取扱事例集

〔裁判所名〕 札幌地方裁判所民事第5部判決
〔判決日付〕 平成20年9月11日
〔事件番号〕 平成19年(ワ)第3491号
〔事 件 名〕  損害賠償請求事件

 

  • 会社構内での死亡事故について,加害者側の30%の過失相殺の主張を斥けた事例
  • 派遣社員である若年者の死亡による逸失利益ついて,被害者の実収入額(年収136万8000円)ではなく,男子全年齢平均賃金(年555万4600円)を基礎収入として算定された事例
  • 派遣社員である若年者の会社構内での死亡事故につき,保険会社が提示した最終示談提案額は4800万円余りであったが、判決の認容額が7000万円強となり、遅延損害金も含めると7800万円余りの支払になった事例

概要

派遣労働者であった被害者が,派遣先の会社が管理する会社敷地構内で,自転車に乗って移動していたところ,公道から左折して構内に進入してきた事業用大型貨物自動車に衝突された自転車もろとも転倒させられたうえ,この自動車に轢かれてしまい,重症を負って死亡してしまいました。

当事務所は,被害者の両親から依頼を受け,加害者と加害者の雇用先に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。

被告側(保険会社)は,特に過失相殺率と基礎収入を争ってきました。

裁判所の認容額(保険会社の最終提示との対比)

本件は,保険会社最終提示額が4763万5161円であったのに対し,裁判を起こした結果,保険会社から7811万6214円の支払を受け取ることとなり,2948万1053円の増額となった事案です。
損害費目ごとの金額を対比すると,次のとおりです。

  裁判所認容額(円) 保険会社最終提示額(円)  
治療費等 108,770 108,770  
死亡逸失利益 49,938,631 44,815,844 500万円以上の差がでた理由に着目
死亡慰謝料 21,000,000 15,000,000  
傷害慰謝料 0 5,300 一旦病院に運ばれたことから,保険会社は,形式的に算定
葬儀費 0 1,000,000 実際には,派遣先会社が葬儀費を負担したので,示談しても支払を受けることができなかったはずのもの。
総損害額 71,047,401 60,821,144  
(過失割合) ▲10% ▲20%  
過失相殺後の損害額 63,942,660 48,743,931  
損害の填補(既払金) ▲108,770 ▲108,770  
損害の填補後の損害額 63,833,890 48,635,161  
弁護士費用 6,383,389 0 保険会社はゼロ査定
合計(裁判所認容額) 70,217,000 59,278,720  
遅延損害金 7,899,214 0 保険会社はゼロ査定
総計(手取総額) 78,116,214 48,635,161  

現場からのコメント

 加害者や加害者の雇用主が被告となるといっても,通常,加害者側には,保険会社が指定した弁護士が代理人として選任されます。訴訟となれば,保険会社もプロであり,継続的に依頼を受けている弁護士が,賠償額を減額するために,いろいろな法律的な争点を提示してくるのが一般であり,これに対抗するためにはの専門知識も必要になります。この事案でも,加害者側は,他に過失相殺の主張をしています。実態をきちんと把握し,筋道をきちんと立てて原告としての主張をしておかなければならないのです。

1 基礎収入について
(1)基礎収入の認定は,人身損害賠償額のうちの逸失利益の算定方式において最も重要な要素であり,平成11年11月,東京・大阪・名古屋の各地方裁判所交通専門部が公表した「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」は,交通事故による逸失利益の算定において,幼児,生徒,学生の場合,専業主婦の場合のほか,比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,原則として,基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によることとし,それ以外の者の場合については,事故前の実収入額によることとしています
 言い換えると,実収入がない幼児,生徒,学生,専業主婦の場合は当然に基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によることとなるけれど,比較的若年の被害者の場合は,事故前の実収入額によるのが原則であり,基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によるためには,生涯を通じて全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性をが認められる場合でなければならないことになります。

(2)本件の被害者は,派遣労働者であり,給料は,世間の平均賃金と比べると4分の1程度と非常に安く,現実の収入をそのまま「基礎収入」とすると,「逸失利益」もとんでもなく低くなってしまうという状況でした。
 そこで,当事務所では,世間の平均賃金を「基礎収入」とすべきであると主張しました。加害者側も,さすがに現実の収入を基礎とすべしとまでは主張しませんでしたが,現実の収入と平均賃金の平均が相当だと主張したのでした。

(3)ただ,「共同提言」で述べられている「生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合」というのがどのような場合なのかははっきりしません。

(4)そこで,当法律事務所では,次のとおり主張しました(平成20年7月9日付け準備書面)。
「本件事故当時20歳で,30歳未満の比較的若年者である亡Aの平成18年分の実収入額は,36万8027円であり(甲8),被告の主張に従って換算し年収136万8000円であるとすると(被告準備書面の2 なお,亡Aの賃金計算方法は甲6,稼働期間,稼働日数は甲7のとおりである。),平成18年の男子の20歳ないし24歳の平均賃金である311万1300円と比較してかなり低額であるが,B株式会社に就職してわずか3か月足らずであっただけでなく,同社は派遣会社であって,近時社会的問題となっている派遣労働者の場合と同様,時間単価も低く,勤務日数も少なかったことが根本的原因であるところ,亡A自身は,北海道を離れ○○県に赴いてまでして就職先を求め,稼働していたものであり,勤労意欲は極めて強く,年齢から考えても,正社員として直接雇用されるなど,より待遇が良く安定した勤務先を自ら探して就職したであろう蓋然性が認められ(なお,労働者派遣制度についても,派遣労働者の待遇改善を目指した見直しが進められている。),生涯を通じて考えた場合,全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められるから,基礎収入を平成18年の男子の全年齢平均賃金(賃金センサス第1巻第1表による産業計・企業規模計・男子労働者計・学歴計・全年齢の平均賃金年額)である555万4600円とするのが相当である(交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言)。」

(5)これに対し,裁判所は,当事務所の主張をほぼそのまま取り入れ,判決の中で,次のように判示し,世間の平均賃金を「基礎収入」とることを認めました。
「・・・Aは,本件事故当時20歳という若さであり,上記派遣会社に就職してまだ3か月であること,特に大きな病気にかかることもなく,健康であり(乙4),就職するために北海道から○○県に出てきたものであることが認められ,派遣先であるC株式会社における稼働状況に特に問題があったことを窺わせる証拠はないから,同人においては,将来,正社員として就職することを念頭に置いていたと推認され,特にその支障となる状況も認められないから,逸失利益を算定するに当たっては,基礎収入として,男子全年齢平均賃金年555万4600円を採用するのが相当である。」

(6)こうして,裁判所は,4993万8631円が死亡逸失利益となると判断しました。
 ちなみに,もし被告側の主張がそのまま認められていれば,3111万8817円に過ぎないことになっていました。

2 過失相殺について
(1)任意保険で賠償金が支払われる場合,加害者や加害者の雇用主が被告となるといっても,背後には保険会社が控えており,通常,加害者側には,保険会社が指定した弁護士が代理人として選任されます。損害賠償額を減額しようとするのは当然です。その一つのテクニックとして,被害者の責任を認めるべきだと主張されるのが通例です。いわゆる「過失相殺」の問題です。

(2)本件でも,裁判提起前に,保険会社担当者は,両親に,別紙資料を渡し,損害総額から20%減額する提示をしていました。
 しかしながら,別紙資料を用いて20%を減額すると説明をするなどトンデモナイことです。別紙資料自体は,「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂4版」(別冊判例タイムズ№16)という資料からの抜粋であり,同書は東京地方裁判所の交通専門部の裁判官たちが編集したものであり,全国の裁判所が,この認定基準におおむね従っています
 しかし,上記資料は,公道での事故について整理したものであって,道路であっても,本件のような私有地内の事故を想定しているものではないのですから別紙資料は,本件には参考にならないものなのです。
 なお,訴訟を提起した後,被告側は,さらに減額しようと試み,30%の過失相殺を主張してきました。

(3)そこで,当法律事務所は,「被告らは亡Aの過失の加算要素を挙げるが,本件事故は,私有地内における事故であって,道路交通法の道路における過失相殺の考え方を前提に検討すること自体が失当であり,30%の過失の主張は明らかに過大であるといわなければならない。」と主張をしておきました。

その結果,裁判所は,「過失相殺については,争いのない事実及び証拠(乙1ないし3,乙5,乙6の1ないし9)によれば,・・・・・・事案であり,直進自転車と先行左折四輪車の事案(別冊判例タイムズ№16,302頁【240】参照)と類似性を有し,これに,構内における事故であり,被告Y1は,歩行者ないし自転車等の構内通行者の存在を予見しうべき状況にあり,門の内側には横断帯の表示もあること,一方,衝突現場付近の門の高さは約3メートルであり,Aは,この門のすぐ内側を進行していたものであり,そのような相手方からの黙視が困難になる状況下で漫然と門からの進入路に乗り入れており,自転者側にも,構内通行にあたっての安全確認不十分な点があったと認められることを総合勘案し,過失相殺として10パーセントを減じるのが相当と判断する。」と判示しました。
 基本的には,構内の事故であることを最大限重視し,別の事案との類似性を挙げることで保険会社の示した事案が不適切であることを間接的に明らかにしたものといえるでしょう。一応,被害者側の責任にも触れていますが,被害者に全く過失がないということはむしろ希であって,10%に留められた過失相殺は最低限のものといってよいでしょう。

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